ザグロス車窓より


 昔、10人ほどのツアーでイランへ行ったことがある。季節は冬。首都テヘランから古都イスファハンへ。イスファハンからシラーズ、キャビール砂漠を抜けてヤズド、ケルマーンへ…延々バスを使っての旅である。

 

 イスファハン市街からザグロス山脈へ入ると“世界”がガラリと変わる。ここまでになるにはどれほどの時代を経てきたことかと唸るような侵食谷、盛り上がった大波がぴたりと動きを止め、岩と化したような大地、縞目も鮮やかな銅色の巨大な断層崖。地殻変動という地球のシワのような絶景の中を、ちっぽけなちっぽけなバスで行く。
 やがて乾いた景色が粉砂糖を振ったようになり、遂には一面の銀世界へ。風に雪が地を這い、流れ、傍らの雪をさぁーっとをなでて雲母状に削っていく。もうもうと舞い上がる雪煙に視界を塞がれる。
 高度が下がるにつれ、風景に色彩が加わっていく。褪せた緑の草地あり、ヤギだか羊だかがいて、冬木立は黒々と、ふいにきらびやかな服装の女性たちが現れた。山の遊牧民・カシュガイ族だ。
 午後2時過ぎ、とある農村にてトイレ休憩。ついでに「昼食をどうするか」の相談会となる。実は吹雪でかなり足止めをくらってしまい、ランチを予約していた店はまだ遥か彼方なのだ。ガイドが、
「しかたない、最後の手段」
とスーツケースをごそごそやって取り出したのはなんと「赤いきつね」(ミニサイズ)。砂漠の町で年越しそばなどすするのも一興…と密かに持参していたものだ。
 事情を話して村の警察署からお湯をもらうと、近所の農家はラバーシュ(クレープのように薄いパン)をいっぱい新聞紙にくるんでくれた。ビスケットやウェハース、鮭?の缶詰も買ってきた。なんだかんだ空腹を満たせそうなものが集まったところで、車中にてランチタイム。
 お湯がぬるくてふやけきれず、ぱりぱりいう麺を割りばしでつまんでいた時、外の様子に気付いた。少し離れたところから学校帰りの子供たちや警官、高台の家の中からは女性たちが「なんだなんだ?」と言う風にじーっとこちらを見ている。そりゃそうだろう、外国人がめったに来ない村に突然腹を空かせた日本人が現れ、皆、同じ赤い器から何か食べているのだから。しかし、ここはどこなんだろう?ガイドに尋ねてみると、
「わからない。地図にない村だから」

 結局、お昼を食べるはずだった町へ入ったのは午後5時半(!)。こじんまりとしたホテルでトイレを借り、ロビーへ行くと、テレビでアニメ「一休さん」をやっていた。
 さてと。シラーズまであと4時間・・・・