パルミラの日の出

アイシス
日の出前に起きたいのか…

ジェリー
猫っすね

 

 昔々、シリア砂漠のほぼ中央にナツメヤシの樹海があり、その中にパルミラという都市があった。通過にラクダの足で40日はかかる砂漠である。パルミラはオアシスとして重宝され、隊商が持ち込む商品に関税をふっかけることで富を得た…とか。
 3世紀、パルミラに絶頂期と滅亡をもたらすことになる女王ゼノビアが現れた。知性、教養、野心あふれる浅黒い肌の美女だったという。正確なルックスは謎だが、こういう場合、美女にしておくのがナイスである。
 20世紀末、彼女の遺した跡をこの目で見てみようとシリアへ行った。ヨルダンからバスで国境を越えてシリア入りし、パルミラ遺跡にほど近いホテルへ。地平線の辺りに遺跡の一部を眺めているうちに、ふとあの遺跡で見る夜明けの風景はさぞ荘厳だろうなあーと思い、じゃ、行こう、とフロントで日の出時刻を聞いてみた。
 翌朝5時起床。空気が恐ろしく乾燥しており、のどが乾きすぎてひりひりと痛む。のど飴で痛みを和らげながら着替え、この辺の地質のせいかうっすら赤い水で顔を洗って飛び出すと、20分後には2kmほど先に見えている列柱目指し、静かな砂漠をてくてくと歩いていた。
 誰もいない。
歩いても歩いても、出発した時から遺跡がちっとも近づいてこないような気がする。太陽は沈むのも早いが昇るのも案外早い。気は急くが実際に歩いてみると砂利の多い沙漠で、起伏も激しく、想像以上に歩き難かった。沙漠に転がる大きな石片の中には明らかに古代の円柱の一部とわかる刻みを持つものもある。こんなところに放置されたまま・・・・と思いつつも通り過ぎるほかない。
 天地の境目、空の底の方にたまっている濃い橙色を背景に、くっきりと、黒々と、列柱のシルエットが浮かび上がる。それらを一本一本、目で辿っていてハッとした。
 大地から日が昇り始めていた。
いにしえに滅び、歴史に奪われ、自然に砕かれ、歳月に撫でられ完成した世界が隅々まで朝日を満たし、目の前にあった。感動、というよりは信じられない、と感じた。立ち止まり、生涯で二度と見られないだろう美しい光景に打たれ、見入り、それから更に足を早めた。完全に日が昇り切る前に遺跡まで辿り着きたくて・・・・

 


 パルミラにある泉からは、今なおこんこんと温かな水が湧き続けているそうだ。